スケッチ旅行の最初のロケ地は杵築。
小笠原博さんが運転するバスを降りた瞬間、城下町の面影を強く残す町との印象をうけた。
城下町としては珍しく坂道が多い。
バスを降りたメンバーは思い思いのスケッチ場所を求めて散っていった。 私はちいさなクロッキー帳とサインペン、わずかながら色鉛筆十数色をもって、 始めのうちは散策。小京都の雰囲気を楽しんでいた。
参加の皆さんは道具一式すべて本格的である。
折りたたみ椅子、水彩・油彩絵の具セット、画板にイーゼル・・・。
プロの画家もいれば、美術の高校教師、プロダクトデザイナー、と絵心たっぷりのメンバーである。
当然といえば当然だが、しかも全員(私も含めて)美術大学の卒業生である。
昼食は杵築の沿岸部に近い魚料理の店で済ませてきた。
スケッチに充てられる時間は二時間。
どうやら皆さんは二時間かけて一枚の「大作」の制作にとりかかったのであろうか・・・。
私は建築家であるから建物に関心があり、気に入った光景をちいさなクロッキー帳に何点か描いた。
歩きまわっているうちにメンバーが一心に写生している場面に出くわす。邪魔にならないように、後ろからその姿をデッサンした。
私は大学時代にデッサンの経験はあるが人物デッサンはしたことがない。
顔は表情を描くのが難しいから後姿ならなんとか「絵」になると思い、隠し撮りのようにこっそりと描いた。
坂道の多い城下町なので、坂道に椅子を据えて写生している先輩が多かったので、自作のタイトルは「老人と坂道」とした。
坂道を道具一式背負い込んで歩くのは少々体力を要する。
参加者は高齢者が多く、坂道を登るのは苦しいだろう、と思ったが皆さん結構タフであった。
新緑の季節であり、杵築がある国東半島は、(古事記にも登場する)神話の世界であり、海外からの観光客も大勢。
この日、外国人女性が和服を着て観光に来たと思われる数名のグループがいた。観光ではなく、茶道の稽古帰りといった風情でもあった。
彼女らは、坂道の頂上付近で熱心に絵筆をとっている老人画家に関心をもったようで、 何ごとか、ひとことふたことみこと、老画家に話しかけていた。
声をかけられた老画家は絵筆を止め、にこやかに彼女らと談笑をはじめた。
私は、難聴のため、離れた場所にいる人たちの会話が聞こえない。
老画家が自然にコミュニケーションしている様子から、外国人女性たちは日本語が堪能と思われた。
私は老画家の後ろからデッサンしていたが、談笑している姿を収めたく、デジタルカメラで記念撮影をして、後日プリントしたものを老画家に贈った。
ところで件の老画家の作品の仕上がりはどうだったのか、私は確かめていないので不明である。 スケッチした作品の発表や講評会は行なわれないので、出来栄えはどうでもいいのである。
そこがお気軽に参加できるスケッチ旅行のいいところだと思った。私も十分に楽しめた。ほかのメンバーもきっと楽しめたことだろう。 スケッチ旅行企画は成功であった。
2013年 4月