「木と土と草の家」
その昔、村じゅうの家が木、土、草の自然素材でつくられていました。
といっても、ほんの50年くらい前までです。
柱や梁など家の骨格は地元の山から伐り出した木を。
壁にはやはり地山の土を。
そして屋根には野原や田んぼのススキやわらを。
今で言うところの「サステナブル=循環可能」型文化をとっくに確立していたわけです。
いい家は子供たちがよろこぶ家。
子供たちは「いい家」に敏感です。
そして「良い環境」になじむのも早い。
草葺きの屋根など見たことなく、はじめは珍しがっていた都会の子。
すぐに自然素材の家がすっかり気に入った様子です。
子供たちがうれしければ、当然大人もうれしい。
木、土、草に
「わが家の香り」
を感ずる方がいれば、
そんなあなたは幸せです。
こんな話を聞きました。
「スギ植えるよりカヤ生産のほうが金になる」
この言葉は里山の深刻な現状を伝えています。
スギは植林してから一人前の大木として育つまで
50〜60年の歳月を待つことになります。
この間、下草刈り、枝打ち、つる切り、間伐など
山の手入れはとても手間がかかります。
10〜15年で一度目の間伐、
30〜40年で2度目の間伐、
主伐期を迎えるまでには数十年近く、山の面倒を見ます。
一方、カヤは、この辺りではススキが用いられます。
ススキは毎年、穂が垂れ下がる頃になると刈り取られ、
茅場に集められ蓄えられます。
間伐ですら10数年に一度、
主伐になると収入を得るのは
植林後実に50年以上も待たねばなりません。
林業に対し、カヤ売りは農作物と同じように
毎期の収入が見込めます。
このことだけでも、木を育てるよりカヤを売ったほうが
安定収入が得られるということ。
さらに。
木はかけた労力に比べると
一本の丸太価格が安すぎて
とても採算が合わない・・・
そうして山を下りる林業家がしだいに増え
村の過疎化に拍車がかかる・・・
山に人手が入らなくなり山はしだいに荒れ、
地場産業である林業の退場とともに村に活力がなくなる。
日本の山村はざっとこんな調子で疲弊していきます。
では、スギより金になるカヤ生産は向上したかというと、
こちらも衰退の一途をたどっています。
これは明らかに茅屋根の家が減ったことによるもの
(というより消滅したことによるもの)です。
茅葺き屋根の家が減った。
葺き材の茅がなくなったからではなく、
維持管理に労力を要するから、と言われています。
茅屋根は寿命が長いよし葺きで50〜60年くらい。
すすきも比較的寿命が長い葺き材とされています。
すすきやよし葺きの1/3の寿命が麦わら葺きの、
その1/3が稲わら葺きの寿命とも言われ、
わら屋根はほぼ10年ごとに総葺き替えが必要、
となります。
この葺き替え作業は村における相互扶助の慣行として行われ、
年中行事として毎年1〜2軒が葺き替えの対象、
となっていたようです。
私が過ごしている民家は建坪40坪くらいですが
屋根面積は、ざっと倍の80坪。
そして、一度に葺き替えた場合は
屋根面積のおよそ5倍から10倍の茅場が必要、
と聞かされただけで
葺き材そのもののボリュームの大きさが想像できます。
林業に見切りをつけ、山を下りた人が増え、
農村でも若い働き手が減り、
過疎化により山村が疲弊しているのは
日本中にある光景ですが、
草屋根を維持する活力も同時に衰えていきました。
古くからある家でも
次第に金属屋根や瓦屋根に葺き替えられ
ここ福島の里山でも
草屋根の家は数えるほどです。
かつての里山の建築文化はすなわち農耕文化。
里山の「木と土と草の家」を
循環型社会のモデル
として考えていく上では
日本の農林業、特に山を豊かにさせることが
日本の建築文化を豊かにするために欠かせない、
とつくづく思うこの頃です。