Modern Living 1957

 私は1957年(昭和32年うまれ)生まれ。
 その年、私の両親は、ある建築家に設計を依頼してマイホームを建てた。
 そしてマイホームのことが、婦人画報社「モダンリビング」昭和32年12月号に紹介された。
 その号の巻頭に建築家 清家清(せいけ きよし)さんが寄稿したエッセイがあるのをつい最近発見した。 とてもいいことが書かれていたのでそっくり転載してご紹介します。

地球をあたためる話
清家 清

すまいも、ひとむかし前と、くらべると、ずいぶん変わったようです。
どこのお宅にも、ラジオがついています。
電気洗濯機・テレビ・電気冷蔵庫・真空掃除機etc 
そういった、住居の機械化も、進んできたようです。
住宅の機械化で、すみよい住居をつくることは、もう常識になってきました。
しかし本誌が念願している、住まいの機能主義的な解決が、生活の機械化とは限りません。
むしろ、機械化も大切ですが、私たち、建築家からみれば、住宅そのものの、 建築的な解決を、もっと機能主義的に考えてゆくべきだと思っています。
例えば、ストーブを入れることは、生活の向上ですが、 ストーブを入れるだけで、家が暖まるとは限りません。
戸外で焚火をしても、背中までは、暖かくならないことぐらい、 子供でも知っているのですが、 日本のいままでの家でストーブを焚くのは、 戸外で焚火をするのと大差のないことと申し上げると、 大抵の人はびっくりします。

勿論、たとえ話のことですから、 やや大げさには云っていますが、 ストーブに向かった顔ばかりがあつくなって、 背中がゾクゾクするような部屋の話が当たっています。

室内でストーブにあたっていても、 戸外で焚き火にあたっているのと大して変わらないからです。 こんな部屋でストーブを焚くのは地球を暖めるようなものです。
壁を透かして熱がドンドン逃げているのです。

熱を逃がす壁を熱貫流の大きい壁といいます。
熱貫流というのは熱が壁をつき抜けてどれくらい逃げるかということです。
室の内外の温度が等しければ、室内の熱は逃げることはありません。

しかし、戸外を風が吹いていたり、戸外の温度が低くなったりすると、 室内の温度は、窓・出入口は勿論、壁・天井・床(ユカ)などから、 ドンドンと逃げてゆきます。
冬になれば、窓や出入口の戸を閉めることはあたりまえですが、 壁や天井はスキ間でもない限り熱は逃げるはずがないと信じている人が多いのではないでしょうか。
それは間違いです。

窓ガラスが湯気に当たったように、水滴でくもっているのは、 部屋の中が暖かそうに見えていいものですが、 実はガラス窓から熱が逃げている証拠なのです。
近ごろのようにガラス面の大きい住宅では、ストーブをいくら燃しても、 室温の上がらないことがあります。
大きなガラス張りの家は、日中は陽が当たるので暖かく、 ストーブの燃料は節約になりますが、 夜はすっかり冷え込んで、 ストーブに向いた顔ばかりポカポカ暑くなって、 背中のほうはゾクゾクするくらい寒く感じるようです。
ガラス面の熱貫流が大きいからです。
建築の仕事が悪くて、スキ間風が吹き込んでくるのは論外として、 一般に熱の逃げ方を考えますと、
@ 輻射によるもの
A 対流によるもの
B 伝導によるもの
と分類できます。
魔法瓶の中のものがさめにくいのは真空層や、銀メッキの反射鏡で、 こうした熱の逃亡を喰いとめているからです。

建物でも、暖かさが、ガラスを透かして逃げたり、 壁を伝って逃げたり、流れたりでたりしないように工夫することが必要で、 その為には窓や壁・天井の熱貫流を少しでも喰い止めることです。

モダンリビング 1957年12月号より

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